本日も桜が綺麗

節度と信念

百合ポエム-2-

雨の降りしきる中、毎日帰宅時に通りがかる公園から鳴き声が聞こえてた。それは、明らかに少女の声をしていた。 何らかの事件かもしれない。ほっとけなくなった彼女は公園に足を踏み入れた。そのには傘もささずにうずくまっている少女が一人いた。病院服を着ていた。

大人は少女に対して手を伸ばす。

「こんなところにいては、風邪を引いてしまうわよ。」

「風邪を引くために、こんなところにいるのよ。」

少女は手を受け取らない。

「どうして?」

「学校に行きたくないから。」

「……なるほど。」

「理由、聞かないんだね。」

「聞いてほしいの?」

「まだ言いたくはないかな。」

「そう。でも風邪を引かなくても学校は休めるし、嫌なことがあったなら、その間に好きなことでもしていればいいよ。」

「…………。」

「どうしたの?」

「その好きなことが奪われてしまったのよ。急に、当然。」

きけば、彼女はピアニストを目指していた。ところが数日前事故にあい、命に別状はなかったものの腕を満足に動かせなくなった。 完治するかもわからないリハビリと長期間のブランクは、トップレベルへの道を断念するには充分すぎる理由だった。 生きがいを失った少女は、途方に暮れていたのだ。

(あまり突っ込まないほうが良さそうではあるけど……)

大人は少女の両腕を掴み、こういった。 「とても暖かいね。どちらの腕もちゃんと生きている。多少ピアノ弾けなくなったところでどうってことないわ。」

「いい加減なこと言わないでください!私は……私はピアノが全てだったんです。これがなきゃ……私は……私はまた……。」

「ねえ聴いて。数年前、将来を期待されたピアニストがいたの。そのピアニストも同じように手を怪我して、2年以上表舞台から消えさり、今日ようやく 小さな会場だけどまたコンサートができるのよ。」

「もしかして、そこの……??」 彼女が指をさした先にはこじんまりとしたジャズバー。ここでピアノを弾くというのだ。

「もし良かったら聴きに来てよ。」

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夢のような時間だった。曲が流れるたびに身体が勝手に動く。聴衆も、その一音一音を心から楽しんでいるようだった、

特に、彼女の演奏は壮絶だった。彼女のこれまでの2年間の全てが詰まったいた。弾けない苦しみを血の滲むようなリハビリで乗り越え、曲の難所を乗り切った時の笑顔と汗。いつのまにか見とれてしまっていた。

少女の腕に血が回りだし熱を帯びた。弾きたい!弾きたい!弾きたい!

「弾きたい!」

とうとう声が出てしまった私に、彼女は私に微笑みかけ、椅子をもうひとつ用意してくれた。

「ゲストの紹介ね。この娘も私と同じく腕を怪我しちゃったピアニスト。でも聴いたよね?さっきの彼女の声を!私はそれに応えてあげたい。」

「……ありがとう。」

「気にしないで。実は貴方の演奏を聴いたことがあって、すっかりファンになっちゃって。どうしても放っておけなかったの。終わったら、裏のバーで会いましょう。曲は☓☓☓でいいかしら?」

「はい。さすがわたしのファンですね!」

「いくよっーー」

その音色は、どこかたどたどしくも、気持ちがこもりにこもっており、やはり聴衆を魅了した。

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「「乾杯」」

「本当に感謝しているわ。貴方と同じように、何年かかっても必ず戻ってくるから。」

「もちろん私ももっと大きなハコを目指すわ。貴女が戻ってくるまでに遠いところまで行ってしまうつもりよ。」

「遠いところまで追いかけていきますよ。」

「期待しているわ。その時までこれを預けておこうかな。」

花柄のブローチを手渡す。

「私は、これを残してあげようかな。」

頬にキスをした。

「粋なことをするのね。貴女レズだったの?」

「ただのスキンシップですよ。あなたとなら嫌な気持ちはしませんが。」

「(ふーん……それならもっと積極的にいけばよかったかな)」

「何です?」

「次一緒になったらセックスしてあげてもいいかなって。」

「ほんとですか。ていうか貴女がレズなんじゃないですか。」

「やっぱり嫌かしら?」

「……嫌じゃないですね。」

「それはよかった。同性愛も悪くないわよ。別の世界をしればきっと音楽性も深くなる。せいぜい他の音楽家に食われないようにね。」

そういって彼女は姿を消した。

「そういえば名前聞きそびれちゃったな。」

少女は、火照った両腕をさすりながら、病院に向かっていった。